 男は今日ふたつの奇蹟を起こした。 そしてそれは何とも切ないお話である。
明け方また古い友達と酒を飲んでいた男は、眠気眼をこすりながらも 朝10時からの面接を受けに大手町へと向かっていた。 そう、就職活動である。
男は焦っていた。 大手町の駅に到着したのは、9時52分。 走れば間に合うというのは何となくわかっていたが、 肝心の面接会場がわからない。
駅のベンチに腰掛けて、すぐさまノートパソコンを開き、 会場の情報があるであろうメールを探すことにした。 この動作は手馴れたもので1分とかからない。まだ間に合うはず。
男はインターネットに接続し、「My Page」と呼ばれるページを開く。 すぐさま「予約確認」へと飛ぶ。
そして男は気づいた。
「面接の予約が入っていない。」
10時に予約したはずの面接が登録された形跡がない。 しかし、手帳には「10時~12時45分」と自分の文字で記されている。
そして男は思い出す。 「キャンセル待ちを忘れないために書いた予定」であると。
「間に合う」ということばがむなしく男の頭から離れていく。
一つ目の奇蹟。
もはや午前中の予定を失った男は、一路大学へと向かう。 「早起きしたことには変わらない。いいことだ。」そう自分言い聞かせながら。
久しぶりに、初回の授業から参加することにすがすがしさを感じた後、 男は18時10分からの違う会社の面接の準備に余裕をもってとりかかった。 今度はしっかりと予定が入っている。
本日2回目の大手町。 男は余裕をもって15分前に駅に到着。 まだ間に合う。
外へ出る。 確か会社があるのは、東京と有楽町駅の中間あたり。 大学で見た会社の地図を思い出しつつ歩き出す。
10分後、男はまだ丸の内周辺を歩いていた。
「迷った」
あるべきところに会社がない。 そして男は地図をもっていなかった。油断した。 焦った男は必死に丸の内を走り回る。
ゆけどもゆけども見つからず。
携帯電話の時計に目をやる。 18時9分。男は本格的に焦った。あと1分。
会社に電話をした男は、自分がまったく 見当違いな場所を彷徨っていることに初めて気づいた。 ビバ東京。
男はなりふり構わず走った。
18時15分到着。 すでに5分を経過していたが、とにかく会場の2階へと走る。
男は会場にただ一人不自然に立っている自分の姿に気づく。 人事の人すらいない。 広い控え室スペースでなぜか一人でポツリ。
すでに始まっていた集団面接で飛び交う声が聞こえる。孤立。
成す術もなく、同じビルにいるであろう人事課に電話をする。 面接控え室から、同じ会社に電話をする自分の姿がなんとも 非現実的で男はなぜか愉快になった。
そして、遅れた旨を伝えたところ翌朝の面接参加の許可をもらう。 一番面接現場に近いところで、翌日の面接の予定を獲得した自分が さらに愉快に思えてならない。シュール。
散々走って疲弊した男は、結局だれとも会話を交わすこともなく 会社を後にした。二つ目の奇蹟。
帰り際に男は気づいた。
今日したこと、
1)スーツ着て大学へ行った。
2)朝と晩の2回、意味もなく大手町に来て戻った。
ということで悔しいので、何かしようと思ったが、 ビールを飲む金もなかったので、仕方なくカフェオレ飲んで帰った。
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